カクテル

最初聴いた時は特に何も思わなかったのに、年を重ねるにつれ、「そういうことだったのか……」と好きになる曲ってないですか?

わたしにとってそれがHysteric Blueの『カクテル』なのですが。

わたしと近しい世代(30代~40代)の人は、中学生か高校生でアニメ『スパイラル』のED曲だったので、知ってる人も多いかと思います。

とはいえ、わたしはアニメを観ておらず、友達とMDやカセットに自分の好きな曲を入れて渡し合うことがよくあり、それで初めて聴きました。なんかしっとりとしてて、どっちかというとアップテンポで電波ソング寄りが好きなわたしは「ふーん」くらいにしか思わなかったんですよね。

それから時が流れ、人生山あり谷ありいろいろあり、25~6歳くらいの時、ふと昔のアニソンを漁っていた時、『カクテル』と再会しました。

公式のMVや音源が見つからず貼ることができないので、各自調べていただければと思うのですが、当時は気にも留めなかった歌詞が胸に刺さりまくる。3分半ほどの楽曲なのに、重みに潰される。「特に歌詞のどの部分が好きですか?」って訊かれたら「全部です」と答える。そのくらいこの曲の言葉のチョイスであったり、並びまですべてが美しいと思っております。


大学3回生の頃、好きな人が出来た。新しいバイト先の人だった。

その頃自分は前のバイト先に彼氏がいて、ずいぶん年上の方だったこともあってから私に対してかなり高圧的な態度をとる人だった。こちらが拒否や嫌な顔をするとすぐ「別れるぞ」と切り出され、別れたくない一心で泣く泣く従ったりという場面も多く、その話をすると友達からも当たり前のように「そういう人はダメだよ。はよ別れや」と諭されていました。でも、性格暗いし、飛び切りの可愛さ・愛想というものがない自分に自信がなかった。だから「きっと一生の中でこの彼氏しか愛してくれないんだ」という、自分で自分を洗脳してしまい完全にダメな状態でした。向こうも向こうで「俺しかお前のこと愛さないよ」みたいな感じだったの、本当になめられてるよなぁと今なら思います。


その人を初めて見た時、一瞬で惚れてしまった。一目ぼれすると雷が落ちたかのような衝撃が~とか言いますけど、まさにそれ。あんだけ別れられないと思っていた彼氏と数か月後に別れた(こういう場になって向こうが引き留めるというか、やや脅迫めいたことを言ってきて、かなり揉めた)くらい、猛烈な勢いで好きになってしまいました。

でも、その人には彼女がいました。付き合って10年になる、遠距離恋愛中の彼女が。その人は休みになると、彼女のもとに足繫く通う日々。

「そろそろ結婚しよう、子どもも作ろうって言ってるんだけど、仕事楽しいからって断られてんだよね」

と、よく飲み会で話してました。

めちゃくちゃ嫉妬してたなぁ。だってさ、その人は毎週のように彼女のところ会いに行って、プロポーズもされてるのに。なんで? ってなってた。わたしなら今すぐにでも結婚して、この人となら子ども産んで育ててもかまわないと何度思ったことか。悔しかった。

かといって、わたしはわたしでクソ真面目だから、「略奪してやる」という強気な行動にも出れず、シフト被ったらバックヤードで話したり、横目でずっと追いかけるだけでした。連絡先訊くにも半年……下手したら1年くらいかかったかも。


その人が店舗異動することになった時、これは最後のチャンスだと思い、ご飯に行き、帰り道に告白しました。もちろん答えは「ごめんなさい。俺には彼女いるから」。「わかってます。わかってるけど、最後に伝えたかったので」と、あの時自分どんな表情で受け答えしたんだろう。特筆してなにかしたわけでもないから、その人が「君と付き合う」という答えが出るはずはないのです。負け試合どころかという感じですけども。当時は精一杯だったんだよな……。


25~6歳の時、風の噂でその人が結婚したことを聞きました。飲み会のちょっとした会話で発覚し、その日は脳内も目の前も真っ白になってしまい、以降のこと何も覚えてないです。

その後、偶然その人が所用で店舗にやって来た時に「ご結婚されたんですね、おめでとうございます」と話しかけると、向こうは嬉しそうにはにかんで「そうなんだよ、ありがとう」って言ってたけど、本当に舌噛みちぎって死にたいくらい言いたくなかった一言でした。実際その一言言って、さっさと立ち去った。というか、涙溢れて顔見れんかった。

そんな状態で『カクテル』を改めて聴いて、めちゃくちゃ泣いた。何度も歌詞見ながら、何度もリピートしては「わかる……」と共感して涙をぼとぼと落とす。その上、ちょうど友達の結婚ラッシュがあり、歌詞にさらに合致して余計にボディブロウ決められ……。わたし自身といえば、またヤベェ性格の人と付き合ってしまい、秋ごろには鬱になり、やけくそで彼氏と別れ(この時も先方が別れを拒否、揉めまくった)、精神も体調も戻らず退職する最悪の季節を迎えてたので……。かなり追いつめられてたよなぁと未だに思う。

それから『カクテル』はウォークマンに入れて、定期的に聴いては、あの頃好きだった人、そして鬱で苦しんだ日々を思い出しては悶えてしまいます。それでも、あのつらかった時期に寄り添ってくれた大切な一曲で、嫌いにはならない、むしろ愛してます。

つい最近、その好きだった人が「こないだ子ども連れてたよ」って話を聞いてしまった。終わってしまった……というか、始まりもしなかったのに、未だにその人の話題が出ると胸が痛むもので。「子どもいるんだ」「そりゃあそうだよね、結婚してるし」「ずっと子ども欲しいって言ってたもんなぁ」「あの人はずっとその彼女さん/奥さんを愛してるんだな」って脳内でものすごいスピードで気持ちが湧き上がったけど、冷静を装って「そうなんですねぇ」とだけ返答した。頑張って乗り切れた……と思う。そして、帰り道にまた『カクテル』を聴いて、ついに「あなたの子供に私の面影はない」まで合致してしまって「コンプリートじゃん」ってなって力なく笑った。ウケる、ウケないけど……の精神。


自分は今不幸せなことはあまりない方なのに、昔の自分が「つらい」と嘆く。

あの時、もっと行動していれば、違う未来があったのか? 10年も付き合ってるようなガチガチ鉄の絆で出来た壁を乗り越えるなり、壊せたのか?

と問うと、首を横に振る。きっとそれは出来なかった。わたしにそこまで振り向かせる魅力も知力もなにもなかった。奪ったところで、あの人に釣り合うことなど出来なかった。見てきた世界、好むもの、なにもかもが違ってるから。それでも、一縷の望みは捨てれなかった。

たまに一人でそんなこと考えては、「ホント無駄だなぁ」って思います。このまま生きるしかないのに。もう引き返せない道を眺めたところでそこにはなにもないのにね。

『カクテル』を浴びるように聴きながら、ビールを飲んでる、そんな秋でございます。

星降る夜明けのスワン

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