ほくろとさよなら
未だに覚えている。
小学5年生くらいの時。授業の途中で校舎裏に行った時だった。
友人のYちゃんがふとわたしの顔を見て言った。
「ロザちゃんは左側にほくろがあるんだね。左側にほくろがある人は将来美人になるんだよ」
「え!そうなの?」
小学生の頃から自分の容姿には自信がなかったわたしは馬鹿正直に喜んでしまった。
すると、Yは「あっ」と短く声を上げた後、こう言った。
「あ、ごめん。よく見たら右側だね。あはは」
そう告げるとYは他の友達の元へ駆けていった。
勝手に持ち上げられて、勝手に地面にたたきつけられた。そんな思い出。
Yとは未だに付き合いがあるのであれなんですけど、申し訳ないけど鮮明に覚えてるんだぜ……。
その日から、顔の右側のほくろが気になってしまうようになってしまった。
右頬に3つ、縦に並んでいる。
上から透明なふくらみのあるほくろ、小さいが色が濃いほくろ、色もサイズも一番大きいほくろ。バリエーション豊かで腹が立つ。
なにかあれば「わたしは右側にほくろがあるもんな……」とがっかりする日々を送っていた。
転機が起きたのは、2024年の1月1日だった。
毎年恒例のおばあちゃん家でホズミ家親戚一同が集まるご飯の席でのことだった。
目の前に座って酒を飲んでいた妹がさらりと言った。
「今月末にほくろとるねん」
「えっ!?」
ほぼ毎日のようにLINEのやりとりをしている仲なのに初耳だった。
「どこの?」
「顔の、ここ(頬の、口に近いあたりを指さす)」
「あー」
「洗顔とか化粧とかしてると当たってさ」
言われるまでそんなところにほくろがあったことを知らなかったが、たしかに少し隆起していて、邪魔だろうなと思った。
「オカンもさ、唇近くに出来てたほくろとったやん?」
「えぇ!?」
慌てて母の顔を見る。言われてみれば下唇にあったデカめのほくろがない。
「取るの痛かった?」
「局所麻酔痛いけど、それ以外は別に」
「なんぼくらいかかるの?」
「お母さんは保険対象やったから大体8000円くらいやったけど、〇〇(妹)は保険外や言われたから1万3000円やったか」
「そう。こんなに困ってるのに保険対象外とかふざけてる」
保険外だったとしても高くないことに衝撃。
「いや、実はわたしもここのさぁ……」
と切り出してみる。
「いうて、大きいホクロはそれなりにお金かかるかもしれんけど、残り2つはそないに大きないし2万ちょいくらいでなんとかなるんとちゃう? もしかしたら保険効いてちょっと安くなるかもやし。あんたもやったら?」
「そうしよかな……」
というわけで、とりあえずニキビ治療でお世話になってる皮膚科へ。
「顔のほくろ取りたいんですけど」
「あー……顔ですか」
医者の顔が曇る。
「取れるけどね、顔なら皮膚科より美容皮膚科の方がいいですよ。お顔はね、大事なので」
次に多汗症関連でお世話になってる美容皮膚科へ。
「顔のほくろ取りたいんですけど」
「えっ!?」
先生の声に集まる看護師さんたち。
「もしするなら手術になるから採血して~」
「一年は経過観察させてもらって~」
黙って説明を受けるものの「えっ!? 母も妹もそんなこと言ってなかったけど!?」と内心焦りまくる。
「そういう流れでホクロはいつでも取るのは取れるけど、よく考えてね。したくなったらまた言ってください」
「あ……はい……」
待ち合いに戻ると、待ってた患者さんが一斉にわたしを見た。
たぶんちょっと診察室から声が漏れてて、なんか大きい手術検討してる人だと思われたんやと思う。恥ずかしくて恥ずかしくてたまらんかった。
顔のホクロごときで……憎きホクロのせいで……大ごとになってしまった。
とぼとぼ歩きで帰りながら、半泣きで母親に電話。
「というわけで、全然取り合ってくれないのだが」
『えー!?なんでそんなことに』
「こっちが聞きたいわい」
お母さんははあ、と小さくため息ついてから、
『ほんならめんどくさいけど、〇〇(妹)が取る美容皮膚科行ったらええんとちゃう。ほら、あんたが昔ニキビ治療で行ってたところやわ』
今住んでる場所から1時間はかかるが、25歳の時にストレス過多で顔じゅうにできたニキビを1年かけてしっかり治してくれた病院なので信頼は厚い。
そうして診療予約し、8年ぶりに実家近くの美容皮膚科へ。
2回にわたるお断りがあったため、おそるおそるだったが、
「顔のほくろ取りたいんですけど」
「あー、はいはい。どれです?」
「え、あ、この右側のほくろ3つなんですけど」
「はい、わかりましたー」
早っっっっ!!!!!!!
しかし、ここで問題発生。
「すべて保険対象外で、一番上のは1万3000円くらいで、一番下の大きいのは1万8000円見てもらう感じですね」
うっ!!!!!!!予想より高い!!!!!!てか、ここで予算オーバーしとる!!!!
心臓がバクバクバクバクと音を立てる。
そして次の瞬間追い打ちをかけるような一言が飛び出す。
「ちなみに真ん中の小さいほくろはそれよりも高くつきます」
「な、なんでですか!?」
「この小さいのが色素一番根深いから、たぶん1回では取れないです」
「ええ……まじですか……」
雑魚と思われてたのが実はラスボスやんけ……。こんなボールペンでついたような小さめのホクロなのに……。ひどい……。
「どうされます?」
先生が問う。
ここまで来たのだ――わたしは腹を決めた。
「じゃ、じゃあ、一番上と下のほくろだけ今回取ってもらっていいですか」
「わかりましたー」
終始軽い……ではなくあっさりとした診察でこれまでが一体何だったのかと思わされた。
2週間後、ホクロ除去日。
一旦実家に行き、予約時間に間に合うよう母が車で送ってくれた。
「思ってるよりすぐ終わるから、お母さんはスーパーとか百均おるから。終わったら電話してな」
「そ、そうなの?」
「30分かからんで」
そんな早くに本当に終わるのか半信半疑のまま病院に着いて、軽く診療したあと、手術室(処置室)へ。
最初に目をゴーグルで保護してもらったあと、局部麻酔へ。これは痛かった。正直一番痛いのはここだったなぁ。
麻酔効いたのを確認後、
「じゃあ、レーザーで削りますねー」
機械が唸る音、温かい何か(器具だけども見えないので何かとしか言えない)がホクロのとことに当たってる感触(痛くない)……そして……臭い!!!!!!!!!!
くさああああああああああああい!!!!!!!
心の中で大絶叫。
焦げてる!焦げてるわ!
人間の肉が焼けると臭いとは聞いてたけど、くっさああああああああああ!
いかに牛豚鶏などのいつも食しているお肉が良い香りか……!お肉食べたい!お肉食べたーい!(錯乱)
臭いに若干参りそうになりつつ、レーザー当てられて、最後消しゴムで字を消すようになんかキュッキュって何かでこすったあと終了。
塗り薬と絆創膏をもらい、会計して時計を見ると確かに30分はかかってなかった。
母の運転する車で実家に戻り、その日は巻き寿司だった。焼肉じゃないかと一瞬思ったけどそういうブラックジョークはしてこなかった。
レーザーで削ったから痛むかなぁとビビってましたが、どういうわけか麻酔が切れても全く痛くない。血は少量数日出てましたけど。
あれからもうすぐ1年。取った場所はまだわかるっちゃわかるけど、かなり馴染みだしてます。
1点悲しかったのは、目に近い一番上にいた透明なふくらみのあるホクロが数か月後にまた膨れだしまして。見てもらったら「まだ組織残ってるかもです」ってわけで結局12月中旬に再度手術しました。まーーーた局部麻酔とあの臭いと1万3000円払いましたよ……。なのでもう1つは経過観察中です。今度こそ消えてくれ頼むと願いながら、肉を食らうのでした。
ちなみに今の今まで家族にしかホクロ取った話してなくて。というか、手術決定した日からずっとブログのネタにしようと思ってたから。それにしてもこの2024年会った人誰からも指摘されなかったよ。(言いづらいものもあると思うが)
自分も母がホクロ取ったの気づかなかったくらいやし、みんな意外と人の顔って見てないし、細かい部分は覚えてないから安心しような!
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