水
わたしは水を飲むのが苦手だ。
もちろんお茶、ジュースなど味があるものは好んで飲む。でも無味無臭の飲み水があまり好みではない。
そもそも我が家も親戚も「水を飲む」という習慣がなく、飲食店でなぜ水が提供されるのかが不思議でならなかったし、しぶしぶ飲んだとしても直前食べていたものの味と混ざると「あ、だめだ」となってしまい、一口でギブアップしていた。
たぶん、「口に含んだ水は吐く」と教えられたからなのかもしれない。歯磨きしても口をゆすいだ水は「吐く」、プールの水が口に入ったら「飲むな、すぐに吐け」と教えられてた影響だったのかもしれない。
今はだいぶ飲めるようになったが、自発的に自販機で水を買うことはほぼない。お茶があるならお茶が良い……。
大学生になり、特定の教室というものがなくなったから、学食でお弁当を食べるようになった。
高校時代にも学食はあったけど、自分も友達もお弁当を持ってきていたため、あまり利用した記憶がない。ということもあり、大学で学食に行くことは楽しみの一つだった。
これは余談だけども、うちの大学はゴールデンウィークが終わるまで、大学内には多くの希望に目を輝かせた学生が溢れる。しかし、広い学食が一か所しかない(あとはかなりこじんまりとした学食が数か所ある)ために、毎日が椅子取り競争となる。もし満席時は、諦めて学食前の廊下に座って食べるほかないという過酷な(?)状況で昼食をとっていた。(この話を他の大学通ってた人に話すと九割「そこそこ大きな大学やのに、学食の座席数が少ないとか意味が分からんすぎやろ」と返される。こっちだって意味わかんねって思いながら過ごしてたよ)
そんなある日。その日もなんとか人数分座席を確保し、さあ、昼ごはん食べるぞとなった瞬間、誰かが言ったのだ。
「ドリンクサーバーにお茶、水、サユがあるけど、みんなどれにする? 人数分入れてくるよ」
サユ?
脳内を「サユ」の二文字が駆け巡る。人生の中で初めて聞く飲み物の名前。マジでわからなかった。わたしはもちろんお茶を選んだが……へ? サユとは?
「私、サユにする~」
と、みんな当たり前のようにサユの存在を認めている。サユというものに違和感を感じてるのはわたしだけのようだったから、余計に「サユとはなにか」を訊くことが出来なかった。
サユを選んだ子のコップをそっと見る。無色透明……水では? どういうこと?
もしかして、たまに出てくる「レモンの味する水」のこと?(水が苦手な人間にとって、レモンの香りづけされてる水は飲みやすくなるので助かる)
でも、そんな名称ついてなかったはずやし……。
わたしが頭上に特大のハテナを浮かべていることを知らず、各々食事の合間に、
「おいし~」
と未知の飲み物・サユを飲んでいる。
これは自分で確認する他ない。わたしはお茶を飲みきり、一人サーバーへ向かう。
注ぎ口が三つついていて、その上に表記が並んでいる。
「緑茶」「水」そして「白湯」。
……まさかお湯のことなん!? というか、これでサユって読むのか……そこから衝撃。
白湯を入れて席に戻り、みんなに悟られないように口をつける。
体温くらいのぬるく、口当たりまろやかなお湯。紅茶やコーヒーなどなしにお湯だけを飲むなんて……不思議でたまらなかった。でも、どうしてだろうか。冷水よりは飲みやすく感じた。
その数年後、白湯を美容や健康のために飲むのが流行するとはこの時の自分は知る由もない……。
ちなみに炭酸水を飲むというのも驚いたな……。炭酸水はカルピスやお酒を割るためにあると思ってたから……。飲料水って幅広いと常々感じる……。
0コメント